2008/07/02

カルメン@チューリヒ歌劇場





今回の遠征の前半の山場である、チューリヒ歌劇場の新制作「カルメン」をみた。今回はインターネットでは安い席がとれず、仕方なく220フランを投資したので、せっかくだからとスーツを着てオペラハウスに行くと、極めてラフな日本人学生二人が偶然にも隣の席となった。聞くと、売れ残りチケットを学生に優遇して販売しているとのことで、25ユーロ(柱が前にある席は20ユーロ)で入場できたという。その差約2万円、若い人に見てもらいたいけど、8割引というのはどうなんだろう。彼らはこちらにきてオペラ初体験で、当然カルメンも初めてだし、カサロヴァもカウフマンも知るよしもない。20年以上前、卒業旅行の学生とマドリッドのフラメンコで一緒になった卒業旅行の学生が、ベルリンフィルに行ったというので、何を聞いたの?と聞くと、誰の曲かよく知らないんだけど「下校の音楽」だったって あんたそれ、ドヴォルザークの新世界のこと?という笑い話の再来みたいで、彼らは、なんだ知っているばかりの曲じゃんと妙に感激していておかしかった。2万円の差は少し悔しいけど、そうやって若い観客を育てようとする姿勢は文化度の深さというものか・・・ さて、今回のカルメン、フォルカー・ヒンターマイヤーによる舞台装置は前方に傾いた円のステージ、後方から子どもたちやたばこ工場の女工たちが登ってきて、その円のステージに、最小限のセットを配置するというもので、第三幕では後方に円のステージと同じぐらいの大きさの月が設置され、第四幕は闘牛場をイメージさせるものは、プロプターの箱に牛の骨がのせられているだけ、右後方に大きな木が設置されるという、シンプルなもの。 マティアス・ハルトマンによる演出は、今ひとつなじめませんでした。ミカエラが登場すると、いきなり警官たち(服装から傭兵というよりは警官)にレイプされ・・・されていないのかもしれないけど、上着をはぎ取られ、下着姿にされてしまう。だから、ホセと再会するときホセは目のやり場に困ってしまう。そのときのホセの表情は、本当に気弱な男として描かれていて、それは最後にカルメンを殺すときも同様だ。ハバネラの際、カルメンがホセにバラを投げるときにも、ホセは全くカルメンに注意を払わず仕事をしているのに、カルメンがやってくるとホセは知恵の輪みたいなものをやっておどおどしている。気弱と純情とは違うのであって、それがあまりにもコミカルというか、性格づけが極端過ぎる気がした。それは、カルメンでも同様なのだが、しかし所謂ファムファタール的なものは、その性格からは感じられず、気むずかしさばかり前面に出ているように感じた。 僕は、子供が出てくるオペラが好きで、カルメンも期待していたのだが、一幕の子どもたちは下手だった。ただ行進していれば良いのでなく、演技させられたかもしれないけど、少しがっかり、また女工達が喧嘩をするシーンの合唱とオケ、まったくかみ合わず、先行きが不安になった。最近の新国立劇場のカルメンの合唱はすばらしいのだけど、それと比較すると、もっと練習してよと言いたくなってしまう。それでも、だんだん調子は良くなってきたけど・・・期待していた分、がっかりした。 歌手では、その性格付けの特異さを差し引いてもヨナス・カウフマンがピカ一だった。カサロヴァは上手いんだけど、下世話なカルメンになっていて、歌いたい気持ちもわかるんだけど、ちょっと違う感じだった。それでもフラキータらとのアンサンブルすばらしかった。ミカエラのイザベル・レイはまあまあかな 服脱がされ、第三幕では人形の首を壊しながら(この演出の意味も今ひとつわからず)の熱唱だった。FWMの指揮とオケは、所謂フランス的な響き(話はスペインだけど)とはほど遠かったし、高揚感もなかったけど、品良くまとめたといったかんじだった。最後、ホセはカルメンを刺し、カルメンが倒れると、そこに近づき、俺はなんてことしちゃったんだって手をブルブルさせておしまい。それは純情さからの殺人というよりは、気弱で思いもがけず人をあやめてしまった事に、驚いているといった感じで、私はそこに感情移入は出来ませんでした。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

おそらく劇場でお会いした者です。プログラムに載っていた歌詞によると、花を投げるシーンでは、ホセはブローチか何かに付ける鎖を作っていたようです。メリメの原作と同じですね。

椎原伸博 さんのコメント...

カウフマンファンの方でしょうか?リナルドの日の幕間にと言っときながら、その日はあえずじまいでしたので、失礼しました。
なるほど、鎖だったのですか 私には知恵の輪をやっているようにしか見えなかった・・笑・・
カウフマンはパリでは、11月にフィデリオの新制作フロレスタンを歌うようです。レオノーレはデノケなので、とても気になります。

匿名 さんのコメント...

そうです、そのカウフマンファンです。ガルニエ宮のフィデリオもぜひ見たいのですが何せ先立つものが無く・・・。7/4のカルメンはカサロヴァにかなりブーが出ていて、一番最後のカーテンコールには彼女はいませんでした。

椎原伸博 さんのコメント...

フィデリオの予約はまだ先なのですが、昨日カウフマンの11月9日のリサイタルのチケットを確保しました。料金は21ユーロです。発表されている、サイトにはSCHUMANN, FRANZ LISZT, RICHARD STRAUSS Lieder とだけ書かれています。大ファンというわけではありませんが、手頃な値段ということもあり、購入しました。