2009/01/30

ティモス弦楽四重奏団「自由とユートピア ウィーン(1908~13年)


 バスティーユのオペラ座には、新国立劇場でいえば中劇場と小劇場の大きさ間ぐらいの「円形劇場」があり、室内楽のコンサートなどが開かれたり、教育普及活動などが行われています。その劇場で、パリ管弦楽団の副コンサートマスターを務める千々岩英一さんが参加しているティモス弦楽四重奏団のコンサートに出かけました。このコンサートの前に、パリの国立地方音楽院に留学している学生さんと会う機会があり、そこで「のだめ」が留学している、パリ国立高等音楽院には年齢制限があり受験資格がないという話(漫画「のだめカンタービレ」の無理があるところです)や、この学校はパリ管弦楽団のスタージュがあるから、就職に有利なのではとか、すぐにでもオーケストラに入団したいといった話を聞きました。
 目的をもち頑張っている学生さんと会うことは、応援したくなり楽しいことです。さて、その国立高等音楽院はパリとリヨンにあり、フランスの音楽教育の最高峰なのですが、その学校を首席で卒業したメンバーによって、この弦楽四重奏団は成立しています。また、メンバーはパリ管弦楽団のメンバーでもあります。今回のコンサートは、以下の1908年から13年にかけてウィーンで作曲された曲によって構成されていますが、いわゆる無調の作品をあつめたものとなります。
A. Schoenberg (1874 - 1951)
6 petites pièces pour piano, opus 19 (1911)
六つの小品
A. Webern (1883 - 1945)
Cinq mouvements pour quatuor à cordes, op.5 (1910)
五つの楽章
上の二つの作品はそれぞれ独立して演奏されるのでなく、シェーンベルク(ピアノ)の第一曲、ウェーベルン(弦楽四重奏)の第一ムーヴマンという順で演奏された。(このような演奏のされ方がなされることが多いのかどうかはわからないが、試みとしては面白いが、私には散漫に聞こえた。それぞれの作品自体の完結性は後退する。むしろ全くアトランダムに演奏した方が、面白いのではないか?)

Arnold Schœnberg (1874 - 1951)
Das Buch der hängenden Gärten (Le livre des Jardins suspendus) Cycle de mélodies pour soprano et piano, opus 15 (1909)
歌曲集「架空庭園の書」
【休憩】
A. Webern (1883 - 1945)
3 pièces pour quatuor à cordes et voix (1913)
弦楽四重奏と声のための三つの小品
A. Schoenberg (1874 - 1951)
Quatuor à cordes n°2 en fa dièse mineur opus 10 avec voix (1907-1908)
弦楽四重奏曲 第2番 (ソプラノ付き)
Quatuor Thymos/Anna Maria Pammer Soprano/Jeff Cohen piano

各音楽院の首席というパンフレットの文字が刷り込まれたかもしれないのだが、演奏を聴いていて優等生な印象を強くもってしまった。破綻なく理知的に音楽は構成され、それに代役となったソプラノ歌手も応え、難しい曲を難なく歌いあげ、お見事だった。
このコンサートを聴きながら、ルーヴル美術館で開催中のブーレーズの展覧会のことを考えることになる。コンサートのパンフでは、青騎士やピカソのアヴィニョンの娘たちとの関連性を示唆するが、それはこのコンサートが1913年で終わることとも関連するだろう。
1913年、この年は、ブログで取り上げたオーギュト・ペレ設計でモーリス・ドニの天井画、そしてブールデールのレリーフによって装飾されたシャンゼリゼ劇場が完成し、そこでストラヴィンスキーが「春の祭典」を発表した年である。ルーヴルのブーレーズ展では、その春の祭典のエスキースが展示されている。
(承前)

2009/01/26

クイズ10の答え



クイズ10をずいぶん前にだしたまま、放置していました。
答えは、ウジェーヌ・ドラクロワ『十字軍のコンスタンティノープル入城』1841年です。
先週、友人の付き添いでヴェルサイユ宮殿に行き、久しぶりに戦闘の回廊を歩き、La Bataille de Taillebourg タイユブールの戦いを見ました。ボードレールの興奮ぶりが伝わってくるような気がします。
さて、十字軍入場の絵を活人画のようにあつかった映画があります。それは、J.L.ゴダールの「パッション」という映画です。ドボルザークのピアノ協奏曲が美しいです(リヒテルとクライバー?)

ウィーン建築写真 オットー・ワーグナー その3






1894年のNussdorf Weir and Canal Locks これはドナウ河からドナウ運河へ水を取り込む水門と、その監視所の建物です。ネット検索していたら、すばらしい写真を発見しました。
ヌスドルフは、ベートーヴェンの遺書で知られるハイリゲンシュタットからほど近い場所ですが、この水門までたどり着くのは少し大変かもしれません。

ブールデール美術館の特別展Gloria Friedmann ''Lune Rousse''




下はシャンゼリゼ劇場のブールデール

ザッキン美術館と同じくモンパルナス地区にある、ブールデール美術館で開催中の展覧会Gloria Friedmann ''Lune Rousse'' を見る。赤い月という展覧会だが、赤と言うよりはピンクの彫刻が目に付く。以前、ここで見たClaude Rutault展ほどは、洗練されていない展示というか、作品の傾向が一様でなく、どのように判断してよいのか迷うことになる。

ザッキン美術館の特別展CREATION / DESTRUCTION





パリ市の美術館は基本的には無料公開なのだが、特別展を常設展会場で行う場合有料となる。モンパルナスのザッキン美術館でも創造/破壊という展覧会が開かれていて、4ユーロ支払った。さて、展覧会は、はじめはただの木の状態であったものが、創造の段階と破壊の段階を経るという流れを、ザッキンの作品だけでなく、他の作家の作品も併置して見せるというもの。たとえば、ビデオ・アーティストのSam Taylor Woodの静物という作品は、シャルダンのモチーフのような果実が朽ちていく様を表現したもの。ザッキンの木彫にも、朽ちていくものがあり、それとの関連性を示すことになる。

ポリーニのテンペストと熱情 ブーレーズ2番ソナタを聴く



サル・プレイエルと音楽都市によるポリーニパースペクティブの公演、現代音楽を取り上げるシリーズでもあり、今日はベートーヴェンの17番23番とブーレーズの2番ソナタのコンサートでした。
今年は来日するそうですが、25000円のチケット(最低料金でも12000円)は買えないだろうから、ここで聞きだめしていくしかありません。さて、聞 き慣れたベートーヴェンの二曲、確かに若い時期との完璧さはないにしても、それでも衰えを感じさせない演奏。とでもいうべきなのか・・・
私の目当てはブーレーズのソナタの方で、76年の録音以来、この曲の巣単ダート演奏なのだろう。この難解な曲を、完全に演奏していて圧巻 もっともどこが完璧なのかわからない曲ではあるのだけ
客席にはブーレーズ本人がいて、最後は二人で舞台で挨拶をしていた・・・ブーレーズが登場すると、かすかにブーの声もかかったが、83歳と67歳、ブーレーズは老いが止まった感じだが、ポリーニはどんどん老けていく印象をもつ。
考えてみれば、中学1年の時に、ポリーニのショパンの練習曲集を聞いて、打ちのめされ、この道に踏み入れたのだが、そのとき僕が12歳で、ポリーニはまだ 30歳。3月7日のコンサートも行きたくなり、帰宅後早速購入、シュトゥックハウゼンとシェーンベルクのプログラムです。

2009/01/25

ピカソと巨匠展 ラストスパート


ピカソと巨匠展はとても人気が高く、既に時間指定チケットは完売、当日券は3時間以上待ちが当たり前の状態となっています。私は、開けゴマ=Sesameという会員に、しかもDuoという、二人で入場できるものの会員のため、待ち時間なしで入れます。とはいえ、普通の時間に行くと、とても混むので、友人を招待するときには、金曜日から月曜日は朝9時からオープンなので、その時間に行くことにしています。昨日一昨日と、二日連続で朝9時に入場して、見納めモードです。私の一番のお気に入りは、ピカソではなく、プラド美術館所蔵のスルバラン「神の子羊」です。
ところで、この展覧会会期末金曜日朝9時から月曜日午後8時までは、なんと特別に24時間営業となります。なんともすごいです。

ウィーンのプレチニクその2






プレチニクが紹介されたときには、歴史的意匠のパロディのような引用が盛んだったポストモダン建築が流行していたときだった。この聖霊教会1910年は、鉄筋コンクリートによる近代建築であるが、歴史的な意匠を踏襲している。しかし、その意匠は近代的な単純化と強調によって、独特なものとなっている。

2009/01/24

Good Morning Mr.Gershwin@Chaillot


ラモーのオペラ『遍歴騎士(レ・パラダン)』のシャトレ座での上演において、舞踊を担当したコレオグラファー ジョゼ・モンタルヴォとドミニク・エルヴュのコンビによる公演をシャイヨ宮の国立劇場で見る。ガーシュインの曲に会わせながら、超絶技巧なダンスとインタラクティブな映像のコラボレーション、優れたエンターティメントに仕上がりながら、黒人の歴史を浮き彫りにすることは忘れていない。時節柄、オバマまで取り込むかしら?と思ったが、そんなことはしなかった。

ムチェンスク群のマクベス夫人@バスティーユ


今年になって初めてのパリオペラ座は、ショスタコーヴィッチの暗い暗いムチェンスク群のマクベス夫人です。パリオペラ座でこの上演といえば、チョン・ミョン・フンの名声を確立したもののCDを思い出しますが、今回は2006年にアムステルダムで上演されたプロダクションによるものです。ちなみに、昨年アムステルダムの上演のDVDが販売されており、日本語字幕がついて鑑賞するようになっています。
さて、このプロダクションは、クシェイという演出家によるもので、セットが大がかりであるとともに、曲自体が大規模オーケストレーションによるため、本当に大スペクタクルといったものになります。しかし、テーマ自体が悲劇的で、暗いので 観た終わった後は、重い気持ちになります。新国立劇場でも今年上演するようですので、演出はどのようになるかわかりませんが、是非見に行くことを勧めます。
youtubeの映像をはりつけますが、これは一番のラスト、恋人を奪われた主人公が、その女性を道連れにして死ぬという、とても暗いシーンです。

2009/01/22

ウィーンのプレチニク その1

Beckgasseのアパルトマン Villa Langer1900-01




昨年芸大美術館で、スロベニアの建築家ヨージェ・プレチニクの建築展が開かれた事をしった。やっと、日本でもプレチニクを紹介する機運が高まったのだろう。さて、プレチニクはオットー・ワーグナーの弟子で、その作品がウィーン、プラハ、そしてスロベニアの首都リュブリアナに多く残されている。国際美学会がリュブリアナで開かれたとき、私はこの建築家の魅力の虜になった。今回、長くウィーンに滞在する機会をえて、三作品ほど見ることができたので、写真を紹介しよう。

ウィーン建築写真 オットー・ワーグナー その2





次は、皇帝一家のシェーンブルン宮殿訪問用の駅舎Hofpavillon1898年

ウィーン建築写真 オットー・ワーグナー その1






コメントをつける時間がないため写真だjけアップしておきます。
最初は、オットー・ワーグナーの代表作 アム・シュタインホーフ教会です。

2009/01/17

社会主義建築の理想を見る



第一次世界大戦後1918年のウィーン、このときオーストリアはハプスブルグ家は退位して帝国は崩壊、その後社会主義政権に移行するのですが、その時代の成果であるカール・マルクス・ホーフを歩きました。この建物、ベートーヴェンの遺書で知られるハイリゲンシュタットの地下鉄駅前にたっていて、全長1kmにおよび巨大なもの、理想がそこに温存されている姿をみました。

オットー・ワーグナーの郵便貯金局




20年ぶりにオットー・ワーグナーの郵便貯金局に行きました。実践の旅行でも、学生たちを連れて行ったのですが、運悪く中に入れず、そういったこともあり、念願かなって中に入ることができました。また、奥は美術館となっていて、後ろ側の入り口から入る内部つまりは第二期工事の部分が公開されています。このホールは、サヴォワ邸とならぶ20世紀建築のマスターピースに他なりません。皮膜のようなガラスに包み込まれた空間に光が満ちあふれていました。

トスカ@ウィーン国立歌劇場


ウィーン5日目は、トスカです。日本人の甲斐栄次郎がチェーザレ・アンジェロッティ役で出ていて、頼もしいが、やや線が細いかな・・・今日の公演では Marco BertiがカヴァラドッシVioleta Urmanaがトスカ、そして悪役スカルピアが大ベテランのSamuel Ramey
ベルティは去年の新国のアイーダでラダメスを歌ったそうですが、チケットを義母に譲ったので、今回初めて聞くのかも なかなかの美声なんだけど、変な表現 だけどもたもたしている感じ ウルマーナはパリ国立オペラ座の日本公演でイゾルデを歌ったそうですが、私には伝わるものがありませんでした。そうなるとベ テラン・レイミーばかりが気になって、本質的ではありません。ウィーンで通常の公演はこのようになされている。そして、こういった演奏にもブラボーを惜し げもなく叫ぶことのできる、そういった優しさがウィーンにあるのではと、皮肉っぽく思いました。

2009/01/16

ウィーン交響楽団演奏会@コンチェルトハウス


ファビオ・ルイージ指揮のウィーンSOの定期演奏会に出かける、プログラムはブラームスの3番とリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」。前半は正直言ってぱっとしなかった。管もぼろぼろで???休憩後のシュトラウスは、コンマスの奮闘もあり、持ち直し、最後はなかなか美しかった。

レオポルド美術館とベルヴェデーレ

今日は、ミュージアム・クォオーターのレオポルド美術館とベルヴェデーレに出かける。つまりは、ウィーンを代表するクリムトとシーレ、さらにはココシュカらの作品をひたすらみるということになる。とはいえ、シーレの内面性は正直言って苦手です。クリムトの装飾性は毒がなくきれいだから許せるけど、シーレは受けつけません。これは昔からの事なので、別に今から好きになろうと思いもしませんが、ただ今回見直してみて、シーレの造形力には感心しました。たとえば彼の素描を見ると、線に迷いがなくて、明確な形の意識が強い。それに比べるとクリムトはか細い線で、軟弱な感じがします。これを繊細というのかもしれませんが、猫を抱く写真を見ると、幻滅してしまいます。さて、ベルヴェデーレの名品「接吻」は通常、上宮に展示されているのですが、この絵が初めて出品された展覧会=Kunstschauの百周年を記念する下宮の特別展に展示されていました。2年前に来たときには、下宮は特別展向けに整備されていなかったので、美術館マネージメント的にいろいろと変革があったのでしょう。さて、この1908年の展覧会を題材にした展覧会はとても興味深かったです。1908年のクリムトの展示室は同寸で再現されていて、全16作品中8作品が展示されていることになりました(ランス人観光客はun deux troisと数えたった8点しかないのって怒ってましたけど)「接吻」の対面には、ローマの近代美術館所蔵の「人生の三世代」が展示され、その金と銀の対比もおもしろかった。

2009/01/15

マノン@ウィーン国立歌劇場


マスネのマノンを見ました。昨夜のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」に続いて、二夜連続のフランスオペラです。当然フランス語での歌唱のため、ドイツ語にとまどっている身には、ありがたい感じがします。今回の上演は、マノンをインヴァ・ムーラ、デグリューをラモン・バルガス、指揮はミゲル・ゴメス・マルティネスというもの。二人ともフランス人ではありません。せっかくデセイがウィーンにいるのだから、デセイで聞きたかったよ・・・ムーラも悪くないのだけど、アルバニアの田舎娘がパリできれいになるといった感じになってしまう。デセィがすばらしすぎるのだ。結局、ヴァルガスのデグリューの引き立て役のようでもあった。以下、三幕の有名なガヴォットのシーン「私が町を歩けば~」の聞き比べです。デセイ、ネトレプコ、フレミングです。



美術史美術館で消耗する






美術史美術館のコレクションは本当にすばらしい。ロンドンのナショナル・ギャラリーやマドリッドのプラド美術館と並ぶ三大絵画コレクションだと思う。ルーヴルにも名品が多いが、フランス絵画を外すと、三つの美術館には及ばないと思う。なので、入館するとどうしてもじっくり見てしまう。そして、消耗してしまう。いきなり、ティティアーノの名作群に打ちのめされ、パルミジャニーノの奇想に魅入られ、カラヴァッジョで茫然自失したかと思うと、これからいやと言うほどのリューベンスが始まる。レンブラント、そしてフェルメールの絵画芸術のイニシエーションを受け、アルトドルファーやクラナッハ、さらにはデューラーといったドイツ絵画の精髄にふれ、ブリューゲルにとどめを刺されることになる。身ながら、ヴァン・ダイクはなじめないことを再確認したりして、気がつくと3時間以上絵画室にいることになる。日本人が大好きなフェルメールの「絵画芸術」は通路みたいなところの展示で、本当に間近で独り占めしながら鑑賞ができるのも良い。今日はスケッチをしながら、見ていたら、多くの観客が立ち止まらない。もっとも、ルーヴルみたいに混んでいないからかもしれないが、本当に5分ぐらい人が通らなかった。5分ぐらいして何人かが素通りして、しばらくするとがさがさと日本人の団体がやってきて、1分ぐらい立ち止まって鑑賞して、過ぎ去っていった。僕がスケッチしている間、一番長く作品を鑑賞していたのがこの団体だというのは、皮肉めいている。11時に入館して、昼を食べそびれてしまったので、クロークの前のベンチに座って、サンドイッチを食べてから、コインギャラリーと古代およびエジプトの展示室に入ったが、既に目は受け付けず、ウォーキングとなってしまった。