2008/11/06

トリスタンとイゾルデ@バスティーユ第三幕




第三幕
舞台のスクリーンは縦長にかわる。そこには、第一幕冒頭同様の海の光景が映し出され、微かに船の灯りがみえる。映像は、木と空の映像に変わる。スクリーン前には台=ベットがおかれ、そこに痛手を負ったトリスタンは寝ている。哀愁を帯びた音色のコールラングレ奏者=シャルマイの音は、舞台向かって左のバルコン席にいて、そこから会場を包み込むように奏でられることになる。その間、映像は先の二幕と違い、トリスタンの心象風景を表すように、絶えず変化しながら映し出されることになる。つまり、木と空の雲、さらには水中へ、そこには水泡が下から上へと上っていく、さらには蜃気楼のような光景になり、手前には麦畑のような黄色、その背後に二人の人物が歩いているような風景、またサイロのようなものが見えると共に、一本の草がクローズアップとなったかと思うと、また水の中の映像へと変わり、男が水のなかで息を吐き水泡が上がるものへとかわる。この間、映像は色彩を有しながらも、明確な形をもたず、モワレ的あるいは、ノイズ的なものとなっている。
 次に白黒が反転しネガのような映像が映し出されるが、波なのか水流のクローズアップなのか、そしてトリスタンの弱々しい独唱が始まり、映像は一本の木が映し出される。この木の映像は神秘的な印象を与える。さらには月の映像が続き、ノイズに満ちたかと思うと、赤い水のなかで誰かがもがいているようなものへとかわる。この赤い水中の映像は、当然ながら「ミレニウムの五つの天使」からの転用であろう。
 さらに蜃気楼の映像が映し出されるが、それはだんだんとイゾルデが近づいてくることを暗示している。三度目のシャルマイの音がなると、映像は再び木と空のものにかわり、ノイズに満ちるが、次には白い衣装の女性が森の中をさまようものへとかわる。さらにノイズに満ちてはいるが、突然子供の顔が映し出され、マッチの火を消すことになる。映像は白黒で水辺のものにかわり、水が上から落ちてくることがわかる。しばらくすると、シャルマイがなると、映像には色彩が戻り、森の中の清水と木の幹を映し出すことになる。また、弱めのシャルマイの音が鳴ると、水面に木の葉が浮かぶ映像となる。
 映像は川から海へとかわり、さらにはオレンジの水のなかに身体が現れる。映像は、水中から外へと移動すると、トリスタンの絶望的な独唱へつながる。クルヴェナールが応答すると、映像は海中の草、色は青緑なものになったかと思うと、イゾルデの影を表現するあの蜃気楼の映像が映し出される。そして、再び水中の映像に変わると、そこに泳ぐ人影がみえ、水中から外にあがると、レンズに水滴がついたまま水面をうつしたかと思うと、木の映像にかわり、舞台ではトリスタントランペットが鳴り響くことになる。そして蜃気楼の映像へとかわる。
クルヴェナールがイゾルデを呼びに行き、イゾルデが到着すると、蜃気楼の映像は、オレンジ色の炎の前にしっかりと立ち、正面を見つめるイゾルデのシルエットの映像にかわる。火の前でたつイゾルデは、すでにトリスタンが死んだことを知ると、前方に歩み寄りそのまま、前方の水面に倒れることになる。倒れると、映像はその倒れた水面の揺らぎの映像のみとなるが、それは、はじめ炎の光を反射するオレンジ色の揺らぎだったのだが、だんだんと上部に青色が揺れ動くようになる。そして、この青色がオレンジ色よりも優勢になり、全体が青色へと漸次的に変化する。すると、青い水中の下方にトリスタンが横たわっている映像へとかわる。舞台上では、トリスタンは横たわっているが、そのまわりでクルヴェナーレがメロートを殺して敵を討ち、両者が果てるとマルケ王が登場する。
マルケ王はトリスタンの死を悼み、イゾルデによる「愛の死」となる。イゾルデの歌唱に合わせ、映像のトリスタンは、だんだんと水泡に包まれながら、水の中を浮上していく。そして、トリスタンが上り詰めたところで、暗転して幕となる。

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